国の主導で医療DXが進み、マイナ保険証や電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなど、医療情報をつなぐ仕組みが次々と整いつつあります。一方で、医療機関の現場に目を向けると、デジタル化は進んでいるものの、取り組みが「点」にとどまり、期待した効果につながっていないケースも少なくありません。
本記事では、国の医療DXの現状と進捗を整理したうえで、DXが「点」で終わってしまう理由と、医療の標準化を起点にDXを「面」へ広げていくための進め方を解説します。
医療DXの現状:国の取り組みと進捗状況
日本の医療DXは、主に国主導で進められてきました。そのベースとなっているのが「医療の標準化」です。医療の標準化とは、医療情報の形式や用語、コード、データ項目、やり取りの方法などを共通のルールにそろえ、異なるシステムや施設の間でも、情報の意味を保ったまま正確に交換・活用できるようにすることです。国の施策の多くは、この標準化を前提に設計されています。
国による医療DXの方針と進捗状況
日本では、2022年10月に設置された医療DX推進本部のもと、2023年6月2日に決定された「
医療DXの推進に関する工程表」に基づき、取り組みが進められています。
工程表によれば、医療DXは大きく次の4つの観点で進められています。
| 主な取り組み | 主な施策 | 進捗状況 |
| マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等 | ・医療機関・薬局でのオンライン資格確認の普及 ・マイナポータルでの特定健診 ・薬剤・診療情報の閲覧 |
・マイナ保険証の利用率は69.7%(2026年6月)であり、2025年8月の43.2%から大きく伸長※1 |
| 全国医療情報プラットフォームの創設 | ・電子処方箋による処方・調剤情報の共有と重複投薬等チェック ・電子カルテ情報共有サービスによる診療情報提供書・退院時サマリー等の共有 |
・電子処方箋の導入率42.5%(2026年8月)※1 ・電子カルテ情報共有サービスは2026年度冬を目途に全国で運用開始予定 |
| 電子カルテ情報の標準化等 | ・標準規格への準拠を求める標準型電子カルテ認証制度 ・国主導のクラウド型「標準型電子カルテ」の開発 |
・標準型電子カルテは2025年3月にα版の試行を開始、2026年度以降の本格実施を目指す |
| 診療報酬改定DX | ・共通算定モジュールの開発・提供 ・共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善 ・診療報酬改定の施行時期の後ろ倒し |
・共通算定モジュールの提供を段階的に拡大中 |
※1:デジタル庁・厚生労働省「
このように、国の施策は着実に前進しています。そして、これらの仕組みを通じて医療機関同士、あるいは医療機関と患者がデータをやり取りするには、データが標準化されていることが欠かせません。
見えてきた課題
一方で、電子化や標準化が進まない病院も多く存在するなど、医療DXの取り組みはまだ道半ばの部分もあります。医療DXを阻む課題として、人材不足やセキュリティ対策、システムの非互換性などが指摘されています。
とりわけ問題なのは、各医療機関における標準化の精度が、十分な水準に達していないことです。標準規格への準拠の度合いや、データの項目・粒度は、施設やシステムごとにばらつきがあります。標準化が十分でなければ、共通基盤と接続できたとしても、円滑なデータ交換や活用が難しくなる可能性があります。
その結果、国の基盤整備が進む一方で、医療機関の現場ではDXが「点」にとどまりやすい、という構図が生まれています。
なぜ医療DXは「点」で終わってしまうのか
各医療機関の現場に目を向けると、Web予約やAI問診、RPA、オンライン診療など、デジタル化そのものは進みつつあります。問題は、それらが施策ごと・システムごとに個別に進み、互いにつながらない「点」の取り組みにとどまっていることです。その結果、十分な効果を得られていないケースも少なくありません。
※関連記事: 医療DXの推進に必要なものとは?
DXが「点」で終わる3つの理由
DXが「点」で終わる理由は、次の3つに整理できます。
①ツールの導入が目的化している
現場の困りごとに対して、Web予約やAI問診といった個別のツールを導入する発想になりがちです。この場合、業務の流れ全体や他部門への影響を設計しないまま運用が始まります。結果としてツールの周辺には紙の書類や二重入力が残り、「一部の業務だけが少し楽になった」という部分的な効率化で終わってしまいます。
②データがシステムごとに分断されている
電子カルテや各部門システムは、それぞれ独自のデータ形式やコード体系で動いています。そのため、データの標準化なしに分析ツールやAIを導入しても、取り込めるのは接続できた一部のシステムのデータだけで、患者や業務の全体像は見えません。
③部門最適にとどまり、院内全体へ広がらない
診療科や部門ごとに業務の進め方や優先事項が異なるため、院内横断での意思決定は簡単ではありません。意欲的な診療科や部門が先にツールを導入すると、そこでは成果が出ても他部門には広がらず、院内にDXの取り組みが点在する状態になります。
「点」で終わらせないために必要な「標準化によるデータ共有」
個々の施策がどれだけ優れていても、データがシステムや診療科ごとに閉じたままでは、その効果は広がりません。データを標準形式で扱い、院内外で共有できる状態をつくることで、施策同士がつながり、DXは広がっていきます。つまり、「点」を「面」にする鍵は、標準化によるデータ共有にあるのです。
国も「面」での取り組みを重視
国もこの点を重視しています。2026年10月に策定された「
医療情報化推進方針」は、医療情報化推進の意義として「点で進んできたDXを、国がハブとなって“線”につなぎ、やがて“面”へ。」と掲げ、個々の医療機関等が構築してきた多様なデジタル基盤を、共通ルールや共通プラットフォームで束ね直し、日本全体で「つながるDX」へ再構築するとしています。この方針は、単に国のプラットフォームを整備するだけでなく、各医療機関側にも、外部と円滑につながるためのデータ基盤整備が求められることを示しています。
医療機関のDXも同様です。個々の施策を積み上げるだけでなく、院内外とつながるための共通の土台、すなわち医療の標準化が必要なのです。
標準化を起点とした医療DX推進の進め方
医療DXを「面」の取り組みにするためには、標準化をDX施策の後から付け足すのではなく、最初に据える前提条件とすることが重要です。具体的には、次の4つのステップで医療DXと標準化を進めていきます。
Step1 現状把握
院内のシステムとデータを棚卸しし、どのデータがどの形式で存在するのか、標準規格への対応状況はどうかを確認します。標準化が不十分である箇所を可視化することが出発点です。
Step2 データ基盤の整備
既存システムのデータを標準形式へ変換・集約するとともに、コードの統一、重複・欠損の確認などを通じて、データ品質を継続的に管理できる基盤を整えます。すべてのシステムを入れ替えるのではなく、既存資産を活かしながら標準化していくことがコスト面・人的リソース面から現実的です。
Step3 院内外の連携
電子カルテ情報共有サービスなど国の仕組みや、地域医療連携とつながる環境を整えます。国の基盤が本格稼働したときに、すぐにつながれる状態を先に準備しておくことが重要です。
Step4 データ活用
つながったデータを、業務効率化やAI活用、臨床研究・二次利用へと展開します。標準化されたデータは、こうした活用のベースとなります。
こうした4つのステップを、既存システムを活かしながら段階的に進めるには、異なる形式の医療データをつなぎ、標準化・統合・活用までを一貫して支えられるデータ基盤が必要です。
標準化起点のDXを支えるデータプラットフォーム「InterSystems IRIS for Health」
こうした標準化の仕組みを支えるのが、医療データプラットフォーム「InterSystems IRIS for Health」です。その主な特徴は次のとおりです。
・多様なデータを標準形式で統合・蓄積し、院内外のシステムと連携できる。
・既存のレガシーシステムを作り替えることなく、HL7 v2やHL7 CDAなどの形式をHL7 FHIRへ変換できる。
・クラウド・オンプレミス・ハイブリッドの各環境に柔軟に展開できる。
・蓄積したデータを分析やAIへ展開できるほか、認証・権限管理・暗号化などのセキュリティ機能も備える。
「InterSystems IRIS for Health」により、既存資産を活かしながら標準化を段階的に進め、現行業務への影響を抑えつつ、DXを「点」から「面」へ広げることができます。
まとめ
国の医療DXは着実に前進していますが、医療機関の現場ではDXが「点」にとどまりやすいのが実情です。その原因は、データがシステムや診療科ごとに閉じていること、つまり標準化によるデータ共有が進んでいないことにあります。
医療DXを「面」へ広げる鍵は、標準化を最初に据え、データプラットフォームをうまく活用することです。「InterSystems IRIS for Health」は、既存資産を活かしながら医療の標準化を段階的に進め、医療DXを「点」から「面」へ広げるための基盤です。国の基盤整備が本格化するいまこそ、自院のデータを「つながる状態」にする準備を始めてみてはいかがでしょうか。
※詳細はInterSystems IRIS for Health 製品ページをご参照ください。
https://www.intersystems.com/jp/products/intersystems-iris-for-health/



































