電子カルテ情報共有サービスをはじめ、医療データ連携を担うシステムでは「HL7 FHIR対応」が重要な開発要件として求められるようになりました。しかし、FHIR形式のデータを返すAPIを作ることと、実運用に耐える医療システムを構築することは同じではありません。
本記事では、FHIR対応システムの開発で本当に難しいポイントを整理したうえで、すべてをフルスクラッチで構築しない「ゼロから作らない」という開発戦略と、それを支える医療データプラットフォームの活用について解説します。
HL7 FHIR対応で本当に難しいのは「APIを作ること」ではない
HL7 FHIRは、RESTful APIやJSONといった広く普及したWeb技術を採用しており、従来の医療情報交換規格に比べて、Web開発者が理解しやすい設計になっています。しかし、FHIR形式のデータを返すAPIを試作することと、実運用に耐えるFHIR対応医療システムを構築することは同じではありません。
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ここで注意したいのは、「Web技術が使えること」と「医療システムとして正しく実装・運用できること」は、まったく別だという点です。医療データを扱う以上、単にAPIが動けばよいわけではありません。
実際には、FHIRリソースを適切に蓄積するリポジトリ、既存データをFHIRへ変換する仕組み、規格やプロファイルに沿っているかを確かめる検証(バリデーション)、機微な医療情報を守るセキュリティ、安定稼働を支える監視、そして蓄積したデータを活かす分析まで、対応すべき範囲は多岐にわたります。FHIR対応の難しさは、APIという「入り口部分」ではなく、その裏側にある医療システムとしての作り込みにあるのです。
たとえば、APIがFHIR形式のJSONを返せたとしても、電子カルテ情報共有サービスで用いられるJP-CLINSなど、対象となる実装ガイドやプロファイルの要件を満たしていなければ、システム間で意図したとおりに情報を交換できない可能性があります。また、誰がどのデータにアクセスできるのかを厳密に制御できなければ、本番の医療現場で使うことはできません。このように「動くAPI」と「使える医療システム」の間には、大きな隔たりがあるのです。
FHIR対応を「フルスクラッチ」で作る場合の負担
こうした範囲をすべて自前で、ゼロからフルスクラッチで開発しようとすると、大きな負担が生じます。とりわけ、標準規格に準拠した共通機能まで含めて一から作り込む場合、その作業量は重いものになります。主な負担は次のとおりです。
規格・プロファイルへの対応
FHIRの仕様は幅広く、日本固有の実装ガイドやプロファイルへの準拠も求められます。規格を正しく理解したうえで実装し、継続的な改定に追従し続けなければなりません。
既存形式とのマッピング変換
多くの医療機関では、HL7 v2やHL7 CDA、独自形式で構築されたシステムが稼働しています。これらのデータをFHIRへ正確にマッピング・変換する作業は煩雑で、難易度も高いものです。正確な変換には、元システムのデータ構造とFHIRの双方に対する深い理解が求められ、変換ルールの設計・検証にも相応の工数がかかります。
セキュリティ・認証認可・監査
医療情報は最も機微な個人情報の一つです。認証・認可やアクセス制御、暗号化、監査証跡の記録などを厳格に設計・実装する必要があります。
開発コスト・期間と人材不足
これら共通機能の作り込みには多大なコストと時間を要します。加えて、医療業務とWeb技術の双方に精通した技術者は慢性的に不足しており、人材の確保も容易ではありません。
継続的な保守・拡張の負担
システムはリリースして終わりではありません。規格改定や各種ガイドラインの改正に合わせて、継続的な保守・拡張が欠かせません。基盤を自作する場合、こうした変更や拡張への継続的な対応も自社で担うことになります。
これらの負担を踏まえると、FHIR対応システムのすべてをフルスクラッチで構築するのではなく、共通化できる機能については、既存のプラットフォームを活用する選択肢を検討する必要があります。問うべきなのは、「すべてを自社で作れるか」ではなく、「自社が本当に作るべき領域はどこか」です。
「作る領域」と「任せる領域」を分ける
そこで有効なのが、システムを「自社で作る領域」と「プラットフォームに任せる領域」に切り分けるアプローチです。この方法では、標準規格に沿って共通化できる部分は実績のある基盤に任せ、自社は本来注力すべき独自価値の開発に集中します。
これは医療分野に限らず、ソフトウェア開発で広く採られている考え方です。データベースや認証基盤を毎回ゼロから作らないのと同じように、FHIR対応に必要な共通機能も、実績ある基盤に任せた方が、開発は速く、安全で、標準準拠も担保しやすくなります。
プラットフォームの活用を検討できる領域
具体的にプラットフォームの活用を検討できるのは、FHIRサーバー/リポジトリ、データの変換・連携、検証、セキュリティ、監査、データアクセスといった標準的な機能群です。これらは多くの医療システムに共通して求められる土台部分であり、実績ある機能を活用することで、個別開発の範囲や保守負担を抑えやすくなります。
自社で作る領域
一方、業務ロジックやユーザー体験、診療ワークフロー、独自サービス、顧客固有の機能は、開発するシステムの質を直接左右します。限られた開発リソースは、こうした差別化につながる領域にこそ振り向けるべきでしょう。
「任せる領域」を担う開発基盤「InterSystems IRIS for Health」
この「任せる領域」を包括的に担えるのが、医療データプラットフォーム「InterSystems IRIS for Health」です。FHIR対応システムをゼロから作るのではなく、実績ある既存機能を活用することで、自社は独自の価値創出にリソースを集中し、開発をスピーディに進められます。
InterSystems IRIS for Healthが提供する主な機能
・FHIRサーバー/リソースリポジトリ:FHIRデータを蓄積し、RESTなどの標準的な手法でアクセスできる。
・医療データの変換・相互運用:HL7 v2やHL7 CDAなどの既存形式をFHIRへ変換し、多様なシステムと連携する。
・FHIRデータの検索・分析:蓄積したデータを検索・分析し、活用へつなげる。
・AI・アプリケーション開発への展開:機械学習機能を備え、同一のデータプラットフォーム上で、AIを含む応用へ発展できる。
・認証・認可・監査・暗号化などのセキュリティ:ガバナンスを意識した安全な運用を支える。
・クラウド/オンプレミス/ハイブリッド対応:環境に合わせて柔軟に展開できる。
たとえばInterSystems IRIS for Healthの医療データ変換機能と相互運用性機能を活用することで、既存のレガシーシステムを全面的に作り替えることなく、HL7 v2やHL7 CDAなどのデータをFHIRへ変換・連携できます。また、FHIRファサードを構成すれば、既存のデータをすべてFHIRリポジトリへ移行することなく、必要に応じてFHIR形式で提供することも可能です。
フルスクラッチせずに得られる効果
医療データプラットフォームを活用すれば、標準規格への準拠にかかる負担を大きく減らせます。そうして空いたリソースを、自社の得意分野である業務・臨床・患者向けの価値開発に振り向けることで、製品・サービスの競争力を高められます。標準対応に必要な共通機能という「守り」を基盤で効率化し、独自価値という「攻め」に人と時間を振り向ける。それが、変化の速い医療IT分野で開発を加速する現実的な戦略です。
まとめ
HL7 FHIR対応は、いまや医療システム開発の避けて通れない要件です。しかし、その難しさはAPIの構築自体ではなく、リポジトリや変換、検証、セキュリティ、監査といった医療システムとしての作り込みにあります。これらをすべて自前で抱え込むのは、コストの面でもリスクの面でも現実的ではありません。
「作る領域」と「任せる領域」を切り分け、標準化できる土台は実績あるプラットフォームに任せる。「InterSystems IRIS for Health」は、その「任せる領域」を担い、医療IT開発を加速する基盤となります。すべてをゼロから作るのではなく、実績ある基盤を活用し、自社にしか生み出せない価値の開発へリソースを振り向ける。それが、開発を加速しソリューションの競争力を高める選択肢ではないでしょうか。
※詳細は InterSystems IRIS for Health 製品ページをご参照ください。



































