医療現場へのAI導入が進みつつあります。画像診断の精度向上から創薬の効率化まで、広く活用できる可能性がある医療AIですが、その導入は容易ではありません。導入の障壁は様々ですが、その一つは「データ」の問題です。
本記事では、医療AIが必要とされる背景と主な活用領域を整理したうえで、AI活用を阻む「データのサイロ化」という課題と、その解決策を解説します。
今、医療AIが必要とされる背景
少子高齢化の進展により、日本の医療需要は増加の一途をたどっています。一方で、医療従事者の不足と地域・診療科の偏在は深刻化しています。地方の病院では医師が不足し、都市部の病院では過重労働が問題視されています。
この構造的な課題を解決する一手として、近年注目を集めているのがAIの活用です。
診療報酬改定が後押し
政策面での医療AI活用の動きは加速しています。2026年度の診療報酬改定では、「業務の効率化に資するICT・AI・IoT等の利活用の推進」が重点項目のひとつに掲げられました。具体的には、生成AIシステムなどを活用する場合、医師事務作業補助者1人を最大1.3人として配置人数に算入できるようになります。また、見守りや記録、情報共有へのAI等の活用を前提に、看護師の配置基準も柔軟化されます※1。
こうした制度改正は、AI導入を通じた業務効率化が病院経営の改善を後押しするものです。
※1参考:厚生労働省「 令和8年度診療報酬改定の概要【全体概要版】」P62、63より
世界の動向
海外ではAI活用の実装がさらに進んでいます。アメリカでは、2024年12月時点でFDAが承認したAIを適用した医療機器プログラムは950件に達し、過去と比べて急増しています※2。中国でもAIを活用した画像診断の実用化や、家庭向けAIコンシェルジュサービスの普及が進んでいます。
日本でも医療機器開発推進研究への予算配分など、国家的な取り組みが少しずつ前進しつつあります。医療AIはもはや未来の話ではなく、世界的に実装が始まっている段階に入ったと言えるでしょう。
※2参考:研究開発戦略センター(CRDS)「 研究開発の俯瞰報告書 ライフサイエンス・臨床医学分野(2024年)」P203より
医療AI活用の主な領域
厚生労働省の「AI活用推進懇談会」では医療AIの重点6領域を定義しており、これらの領域を俯瞰することで医療AIが目指す姿が見えてきます※3。
①ゲノム医療 遺伝子情報と臨床情報をAIで解析し、個々の患者に最適な治療法を特定します。特にがん治療への応用が期待されており、精密医療を前進させる可能性を持っています。
②画像診断支援 放射線・病理・内視鏡・眼科などの画像をAIが解析することで、見落としリスクを低減し、診断速度を向上させます。専門医不足の診療科では、AIが一次スクリーニングを担う形での活用も想定されます。
③診断・治療支援 問診情報や検査データを統合的に分析し、医師の臨床判断を補助します。難病診断の支援や、地域・診療科偏在の緩和にも貢献が期待されています。
④医薬品開発 科学論文や遺伝子情報をAIで解析し、創薬ターゲットを探索します。多大な時間とコストを要してきた新薬開発を、AIが効率化できる可能性があります。
⑤介護・認知症 高齢者の生活リズムデータや行動パターンの分析や介護ロボットなどの導入を通して、認知症の早期発見・重症化予防、介護者の業務負担軽減に活用します。
⑥手術支援 手術データを基盤にAIが術中支援や術後管理を担います。外科医の不足と過重労働への対応として、長期的にはAI支援型手術への進化も期待されます。
これら6領域でのAI活用に共通するのは、大量の医療データを学習・推論の基盤とするという点です。ところが、この「データ」こそが、医療AI活用における課題を生み出しています。
※3参考:厚生労働省「 保健医療分野におけるAI活用推進懇談会 報告書」概要P3より
医療AI活用を妨げる「データが利用できない」という課題
医療AIが真価を発揮するためには、質の高いデータが不可欠です。しかし現実の医療現場では、データのサイロ化が深刻化しています。
サイロ化とは、組織やシステムごとにデータが分断されてしまい、必要な情報を組織横断で活用できない状態のことです。データがサイロ化しているとAIへ学習されるデータは限定的なものとなり、AIの精度も上がりません。
具体的には、医療現場には以下のような課題が存在します。
課題①:フォーマットの不統一
電子カルテはベンダーごとに独自のスキーマを持っており、同じ患者の情報でもシステムが違えば単位の表記も粒度も異なり得ます。あるシステムでは血圧を「mmHg」で記録し、別のシステムでは別形式で管理している、といった状況が存在します。こうした不統一がAIの学習精度を損ないます。
課題②:患者識別の困難さ
病院をまたいで同一患者のデータを突き合わせるには、氏名の表記ゆれや生年月日の入力ミス、施設ごとに異なる患者IDといった障壁を乗り越え、名寄せを行う必要があります。これは簡単な作業ではなく、多くの時間を要するものです。
患者のデータが正しく名寄せされなければ、どれだけ高性能なAIモデルを導入しても精度は担保できません。
課題③:セキュリティとプライバシーの制約
医療情報は要配慮個人情報であり、その取り扱いには厳格な管理が求められます。利便性を追求しすぎてセキュリティが脆弱になれば、情報漏洩リスクが高まります。AI活用とセキュリティの両立は医療現場が避けて通れない課題であり、適切なアクセス管理と監査体制の整備が必要です。
解決に必要な「相互運用性」を持つデータプラットフォーム
これらの「フォーマット統一」「情報の名寄せ」「セキュリティの担保」といった課題を乗り越えるには、標準的な規格を実装しつつ、異なるシステムを束ねてデータを安全に管理できる「医療向けのデータプラットフォーム」が必要です。
その役割は大きく3つに整理できます。
①多様なフォーマットの統合変換
さまざまな形式のデータを自動変換・正規化し、標準化されたデータをAIにインプットする仕組みです。フォーマットの違いを吸収し、統一された形式に整えることで、AI推論の精度を高められます。
②各システム間の連携
外来・入院・検査など、院内にサイロ化したシステムを連携させつつ、院外システムとのAPIによる接続も担います。データを一元的に集約できるインフラの整備こそが、有効なAI活用の基盤となります。
③セキュリティとガバナンスの一元管理
誰がどのデータに、何の目的でアクセスしたかを追跡可能な監査ログで管理します。詳細なアクセス権限設定と暗号化によって、情報漏洩リスクを最小化しながらAIを運用できます。
まとめ
少子高齢化と医療従事者不足という課題に向き合うために、医療AIへの期待が高まっています。一方で、その実現を阻んでいるのは、モデルの性能ではなく、すべてのデータを正しく扱うことを可能とする「データプラットフォーム」の不備にあるケースが多いことも事実です。
医療現場の課題を解決するのが、相互運用性を持ちセキュリティ対策が施された医療データプラットフォームの役割です。どれほど優れたAIモデルを導入しても、入力されるデータの質と一貫性が担保されていなければ、その結果は信頼できるものになりません。
この領域のリファレンスとなるプロダクトの1つが、InterSystems IRIS for Healthです。本製品はHL7 FHIRをはじめとする標準規格に対応した統合データプラットフォームであり、多様な医療システムからのデータ統合、院内外連携のためのAPI管理、厳格なアクセス制御と監査ログ管理をひとつのプラットフォームで実現します。
医療AI活用の課題が「データの分断」にある中で、データを扱うプラットフォームの選択はAI活用の成否を分けます。デジタル化が急速に進む医療の世界で、今こそデータプラットフォームの整備を検討してみてはいかがでしょうか。
※詳細は InterSystems IRIS for Health 製品ページをご参照ください。



































