この記事は、元は 2016 年 10 月 11 日付けで Business Computing Worldに掲載されたものですが、許可を得てここに再掲載しました。
“私たちが直面している最も大きな課題は、まわりの世界と同じくらいのスピードで変化していけるよう、私たち自身を立て直すことだ” とは、英国政府デジタル サービスの事務局長 Stephen Foreshew-Cain氏が、 将来の政府に対する期待について語ったときの思慮深い発言ですが、これは、あらゆる部門のビジネスについて当てはまります。
急速かつ絶え間ない変化が起きている現在では、綿密に収集され、精緻化された履歴データに基づく意思決定という従来のモデルは、もはや目的に適合しなくなっています。後ろを振り返りながらでは、前向きな意思決定はできません。数時間、数日、さらには数か月前の情報に基づいて物事を選択することは、バックミラーを見ながら運転するのと同じです。
また、後ろを見ていると、前方にあるものはまったく認識できません。英国の EU 離脱などの事例に明らかなように、予想外のことが起こるのが世の中であり、公共/民間の別なく、組織は状況にすばやく適応しながら前進していく必要があります。データへの迅速なアクセスによって意思決定を促進することがきわめて重要です。また、データを検知して、適切な対応措置をとるための能力も必要です。まさにこのような能力を企業に提供し、企業が世界の移り変わりとともに変化していけるようにするテクノロジが登場しています。
パーソナライズされたリアルタイムのカスタマ ケア
例えば、小売業のことを考えてください。個々の消費者が週一度の買い出しで選択する商品を基に、それぞれの消費者の好き嫌いに関するデータが得られます。その後、このデータを使って、それぞれの消費者の支払い時にその消費者向けの特別提供品を示すことができます。さらに、それぞれの消費者の次の買い出し日までにその消費者が必要とする商品を店舗に揃えておけるように、サプライ チェーンで商品の発注処理がトリガされます。
英国を拠点とする電子機器の小売企業である Maplin 社は、強力なアプリケーション統合テクノロジを基盤とするリアルタイムの販売分析を活用してこのようなシステムを実現することに取り組んでいます。実現後、同社は、大量のデータの迅速な移動を通じて、「クリック アンド モルタル」 (オンライン店舗と実店舗の両方を展開するビジネス) が提供可能な最良レベルのパーソナライズされたカスタマ サービスを提供できるようになります。
このようなパーソナライゼーションは、医療分野にもメリットをもたらす可能性があります。個々の病院に保持されているそれぞれの患者に関する大量のデータを活用することによって、その患者に適した推奨治療を医師に提示できるだけでなく、その患者が病院での治療を受けることなく日々を過ごし、生活の質を大いに向上させることができる適切な推奨ケア パッケージを提示できます。
例えば、それぞれの個人のゲノムをマッピングし、ウェアラブル デバイスを医療記録にリンクさせることで、ヘルスケアに革命を起こすパーソナライズされた医療を実現できる可能性があります。ただし、そのためには、このようなデータと意思決定支援機能を最前線のケア担当者が利用できるようにしなくてはなりません。
さらに、教育分野にもメリットがある可能性があります。遺伝子の構成が個人ごとに異なるように、学習のスタイルも人によってさまざまです。個々の学生のテスト結果から得られるデータに基づいて、その学生の好む学習スタイルや、どのようなアプローチで指導するのが最適かが分かることがあります。
新たなデータ ソースとしてバイオマーカーも利用できる可能性があります。例えば、学習障害のある児童が学校環境で特にストレスを感じているときに、バイオマーカーによってそのような状態を検知できます。この機能を授業や教室でのアプローチに活用して子供の状態を把握することによって、すべての子供のニーズへの適切な対処が促進されます。
インライン アナリティクスがこのような変革を促進
このような変革を実現するための秘密のレシピが、インライン アナリティクス (またはアクティブ アナリティクス) です。インライン アナリティクスでは、拡大し続ける複数のソースからリアルタイムでカスタマ データが取り込まれます。そして、迅速な処理/アナリティクスの実行とアルゴリズムの使用を通じて、優れたカスタマ ケアを実施するのに必要な情報が最前線の作業者に提供されます。
この場合、カスタマは、レジの前にいる消費者である場合もあれば、病院内の患者や教室内の児童である場合もあります。このアプローチから得られる優れた洞察は、どのケースについてもメリットをもたらす可能性があります。
インライン アナリティクスを活用することによって、企業は外部のイベントに迅速に対応できるようになります。外部のイベントには、モノのインターネットで具体化された急増するデータ ソース群によって引き起こされるものもあれば、大規模な政変につながる投票などの政治的なイベントによって引き起こされるものもあります。
例えば、世界各国の金融サービス企業は、予定されている英国の EU 離脱から生じる新たな政策を考慮して、方針および税務計画を変更できるようになります。複数のデータ ソースの収集、処理、分析を数分で完了できるため、迅速な意思決定が可能になり、競争力が強化されます。
法執行機関は、犯罪科学捜査用のマーキング ソフトウェア プロバイダ、SmartWater Technology 社が提供する SmartWater などのテクノロジを活用して、逮捕した容疑者を犯人として特定できます。SmartWater では、独自の識別システムによって、盗品にあらかじめ塗布してある独特なマーカーに関する情報と、容疑者の元で見つかった物品とを照合し、その物品に同一のマーカーが塗られていないか調べることができます。この照合は瞬時に行えます。
最前線でのデータの使用方法の大胆な変革が必要
このような高度な機能は、インメモリ データベース、ハイパフォーマンス テクノロジ、高度な並列処理など、現在利用可能な各種テクノロジを必要とします。また、マルチモデル、マルチワークロード対応のデータ プラットフォームも、リアルタイムのデータ主導型意思決定というビジョンの実現に役立ちます。組織が必要とするスピードと規模での複数のトランザクションの処理は、これらによってサポートされます。
この実現は容易ではありませんが、一部の企業では既に、 これらのテクノロジを活用して、最適なアプローチによるデジタル変革に取り組んでいます。これらの企業の事例から、ビッグ データの最適な活用方法がわかります。大規模なデータ ウェアハウスを維持し、履歴データに基づいて少人数で意思決定を行うという方法では、企業が生き残るために必要な答えはもはや得られません。
Foreshew-Cain 氏は、「ソリューションを新たなバージョンに更新するだけでは、今日の課題解決のための答えとはならない」と言っていますが、まさにそのとおりです。データを活用したリアルタイムの意思決定方法の大胆な変革が必要です。
このような変革を実現しようとする企業は、カスタマ、患者、そして最前線のスタッフを業務の中心に据える必要があります。医師、教師、販売員の別を問わず、最前線のスタッフをテクノロジによって支援し、スタッフの能力を強化することによって、それぞれの組織において、最良のパーソナライズされたカスタマ ケアの提供が促進されます。
いずれは、無数のソースから得られた最新のデータに基づく自動化された意思決定が標準となるでしょう。そして、企業と市民の両方にモノのインターネットが根を下ろすにしたがって、これらのデータ ソースは膨大なものとなるでしょう。重要な場所にテクノロジを配備することによって、今後の大きな成功のための基盤が築かれます。企業は、この実現に向けた適切なツールを確保するための措置を、ただちにとる必要があります。