災害や需要の急変、取引先のトラブルなど、サプライチェーンを揺るがす出来事は突然発生します。その影響を最小限に抑えるには、サプライチェーン全体の状況をリアルタイムに把握するための「可視化」が欠かせません。一方で、そのために必要となるデータがシステムや企業ごとに分散しており、思うように可視化が進まないという企業も多くみられます。
本記事では、サプライチェーンの可視化を阻む要因と、従来のデータ統合アプローチの限界を整理したうえで、既存のシステム資産を捨てずにデータをつなぐ「データファブリック」によるアプローチについて解説します。
サプライチェーンの可視化を阻む「データの分散」
地政学的なリスクの増大やビジネス環境の変化、頻発する自然災害など、サプライチェーンを取り巻く不確実性は高まり続けています。変化に素早く対応するには、サプライチェーン全体をデータで可視化しておくことが欠かせません。しかし実際には、可視化が進んでいない分野がまだ多く残されています。
高まるサプライチェーン可視化の必要性
調達先の供給停止や輸送の遅延、需要の急変といった事態が起きたとき、まず必要になるのは「どこに、どれだけの影響が出るのか」を素早く把握することです。影響範囲をすぐに把握できなければ、代替調達や在庫の振り替えといった対応は後手に回ります。その遅れはそのままサプライチェーン復旧の遅れにつながり、自社の経営に深刻な影響を及ぼしかねません。
また、ビジネスが複雑化し、調達・生産・物流・販売が多くの企業にまたがって営まれる現在では、危機発生時には自社のみならず、取引先を含めたサプライチェーン全体での対処が求められます。
可視化を阻む「データの分散」
一方で、サプライチェーンを可視化するうえで大きな壁となるのが、データの分散です。社内だけを見ても、ERPをはじめとする基幹システム、WMS(倉庫管理システム)、TMS(配送管理システム)といった複数のシステムに、それぞれの業務に合わせた形でデータが保持されています。さらに取引先との連携となると、EDI、Excel、メールと手段はさまざまで、データの管理方法が統一されていないことがほとんどです。
加えて、商品コードや拠点コードといったコード体系、在庫や納期といったデータの定義方法、データが更新されるタイミングも、システムや企業ごとに異なります。そのため、可視化に取りかかる前のデータ収集段階で、すでに多くの労力が必要になります。
こうした状況で、Excelでの手作業による集計や夜間のバッチ処理により可視化を試みても、部門間・企業間で数字の前提条件が異なり、数字を合わせられないといった問題が起こりがちです。また、各社・各部門に人手で情報を出してもらう運用では、情報が届くまでにどうしても時間がかかり、タイムリーに現状を把握することは困難です。
従来のデータ統合アプローチとその限界
分散したデータをつないでサプライチェーンを可視化する方法として、これまで主に3つのアプローチがとられてきました。しかし、いずれの方法にも限界があります。
個別連携
一つ目は、システム同士を1対1でつなぐ個別連携です。必要なシステム間だけを接続すればよいため、小さく始めやすいのが利点です。
しかし、このアプローチでは接続先が増えるほど連携の本数は増え、構成は複雑化していきます。どこかのシステムを変更すれば、つながっている連携のすべてに影響が及ぶため、保守の負担も膨らんでしまいます。社内での連携はもちろん、取引先まで範囲を広げることは容易ではありません。
DWH・データレイクによるデータの一元集約
二つ目は、各システムのデータをDWH(データウェアハウス)やデータレイクに集め、そこで分析・可視化を行う方法です。データを1カ所にコピーして集約することで、横断的な分析がしやすくなります。
中央にハブを用意してデータを集約する方法は、個別連携の課題を解決できる優れたアプローチです。一方で、各システムからデータを抽出し、形式を変換して格納するETL処理の開発・運用には手間がかかります。データをコピーして移す以上、元のシステムとの間にタイムラグが生じ、鮮度が落ちやすい点も課題です。さらに、集約先そのものが一部の部門しか使わない新たなサイロになってしまうリスクもあります。
基幹システムの刷新・統合
三つ目は、基幹システムそのものを刷新・統合し、データの持ち方を抜本的に整える方法です。
レガシーシステムがDX推進の障害になっているケースは多く、中長期的に見れば刷新は避けて通れませんが、全システムを一度に入れ替えるには多大なコストと時間がかかります。そして刷新プロジェクトが続いている間も、サプライチェーンは可視化されないままです。一般的に基幹システムの刷新は複数年にわたるため、刷新の完了を待ってから可視化に着手するのでは、変化のスピードに追いつけません。
関連記事: スマートロジスティクスへの移行:システム刷新リスクを抑える「第3の選択肢」
このように、従来の3つのアプローチでは、既存資産を活かしたまま鮮度の高いデータで全体を見ることは難しいのが実情です。
既存資産を捨てずにつなぐ「データファブリック」
こうした限界を乗り越えるアプローチとして検討できるのが「データファブリック」です。
データファブリックとは
データファブリックとは、データの糸を1つ1つ縦横無尽に紡ぐことで、やがて強靭で柔軟なデータ基盤が整備され、必要なデータをいつでもどこでもリアルタイムに活用できることを目指す新しい設計思想です。企業内外に分散したデータを、ひとつにつながった「布(ファブリック)」のように扱えるようにする、という考え方からこう呼ばれています。
最大の特徴は、「データを移さず、つなぐ」点にあります。DWHやデータレイクのように全データを1カ所へ移すのではなく、既存のシステムを補完する形で、必要なデータに元のシステムから直接アクセスします。もちろん、必要に応じてデータを蓄積する設計とすることもでき、データを参照するか、集めて蓄積するかを用途に応じて使い分けます。
関連記事: データファブリックとは何か?
データファブリックがサプライチェーン可視化にもたらす価値
データファブリックの考え方をサプライチェーンに適用すると、次のような価値が得られます。
既存システムを活かしたまま、全体を横断的に可視化できる
ERP・WMS・TMSといった既存システムはそのまま稼働させながら、それらに存在するデータを鮮度の高い状態で横断的に参照できます。
部門や企業が「同じ数字」で状況を把握できる
システムや企業ごとに異なるコード体系やデータの定義を、データファブリック上で揃えられます。これにより、部門間・企業間で前提が食い違うことなく、同じ数字をもとに議論し、判断できるようになります。
取引先とも安全にデータを共有できる
誰がどのデータにアクセスできるかを一元的に管理できるため、取引先ごとにデータの共有範囲を細かく制御できます。サプライチェーン全体の可視化に欠かせない社外とのデータ共有を、安全に進められます。
小さく始めて、段階的に広げられる
特定の拠点や品目から始めて、効果を確かめながら対象を広げていくことができます。また、将来的に基幹システムなどのレガシーシステムを刷新する際の影響を抑えられる点もメリットです。
InterSystems Supply Chain Orchestratorが実現するスマートデータファブリック
データファブリックは特定の製品を指す言葉ではなく、設計思想です。これを実現するには、データの接続・変換・蓄積・分析など多くの機能が必要になります。これらを個別のツールの組み合わせで実現しようとすると、ツール間の連携や運用の手間が増え、かえって仕組みが複雑になりかねません。
InterSystems Supply Chain Orchestratorは、スマートデータファブリックを実現するデータプラットフォーム「InterSystems IRIS」上に構築された、サプライチェーン向けのソリューションです。データ統合、相互連携、AI分析・機械学習といった機能を一つの製品で提供するため、複数のツールを組み合わせる必要がありません。
これにより、既存システムのデータをつないでリアルタイムに提供し、サプライチェーン全体の可視化を実現できます。さらに、統合されたデータをもとに需要の変化やリスクを分析し、次の一手につなげることもできます。
まとめ
サプライチェーンの可視化が求められる一方で、システムや企業ごとにデータが分散している現状では、個別連携・一元集約・刷新のいずれの方法でも、鮮度の高いデータで全体を俯瞰することは容易ではありません。
データファブリックは、データを移さずにつなぐことで、既存のシステム資産を捨てることなくサプライチェーン全体の可視化を実現する設計思想です。小さく始めて段階的に広げられ、将来のシステム刷新とも両立させやすいという特徴があります。
AIやIoTを活用して物流全体を最適化するスマートロジスティクスを実現するためのデータプラットフォームとして、スマートデータファブリックを一つの製品で提供する「InterSystems Supply Chain Orchestrator」の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
※InterSystemsが実現するスマートロジスティクスの詳細は以下をご参照ください。
https://www.intersystems.com/jp/smart-logistics/



































